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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1160号 判決

控訴人 原告 水口物産株式会社

訴訟代理人 鈴木喜三郎 外四名

被控訴人 被告 社団法人東京商工会議所 外四名

訴訟代理人 春田定雄 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴の趣旨並びにその答弁。

(一)控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人東京商工会議所が昭和二十五年六月二十八日の議員総会においてなした『高橋龍太郎を同会議所の会頭に、上野十蔵、近藤銕次、岸喜二雄、守随彦太郎を同副会頭に、浅尾新甫、庵本伊三、伊藤精七、板倉安兵衛、岩上淳一、岩瀬英一郎、磯村乙己、上田長清、小川春之輔、小野義夫、大沢常太郎、折笠敬治、伽藍康裕、木村英雄、菊地武一、五島斎三、小菅千代市、小林寅次助、清水康雄、曾我正一、高井亮太郎、高田五郎、千金良宗三郎、司忠、戸田利兵衛、遠山元一、永野重雄、根津嘉一郎、野沢一郎、原安三郎、服部正次、浜忠次郎、堀久作、丸山権一郎、丸山茂、松島武夫、向井武雄、守谷正毅、八坂雅二、横山公雄を同理事に、鈴木幸七、平原重吉、吉田信賢を同監事に選任する。』旨の決議は無効であることを確認する。被控訴人上野十蔵、同近藤銕次、同岸喜二雄、同守随彦太認は被控訴人東京商工会議所の副会頭でないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求めた。

(二)  被控訴人等代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者双方の事実上の主張。

(一)控訴代理人は、(イ)原判決事実摘示(1) の(二)の主張に附加して次の主張をなす、即ち本件会員総会においては代理人によつて議決権を行使し得るものとしても、その代理権は招集通知に予め示された付議事項にのみ局限されるものであるところ、右総会の招集通知には役員選任に関する事項は記載されていなかつたから、この議案については代理権は及ばない、従つて本件会員総会の決議は適法なる代理権のない者の代行によつて議決されたものであつて、法律上無効である。(ロ)原判決事実摘示(4) の(イ)の主張の趣旨は次の如くである。即ち本件議員総会には、原判決事実摘示(記録第三百一丁裏五行目以下三百二丁表四行目)の如き十三名の者が出席して議決権を行使したが、同人等は被控訴人東京商工会議所の議員でもなく、又届出済の代表者でもない、かかる無資格者が参加してなした決議は、右会議所の公的本質に照すも、はた又民法第一条の精神から考えてみても、当然無効であるといわなければならない。(ハ)本件会員総会の決議が無効であるとする理由として次の主張を附加する、即ち本件会員総会当時における正会員の総数は三千八十八名であつたところ、右総会に出席して議決権を行使したものは合計千四百六十九名(会員自身出席した者九十一名、代理人による者千三百七十八名)に過ぎないから、定款第十八条但書に定める定足数を欠如するものであつて、かかる構成の下になされた会員総会の決議は、定款の規定に違反し無効である、もつとも被控訴人等は右正会員総数の内、六百八名については当時会員権が停止せられていたと抗争するけれども、かかる事実は争う、元来会員権を停止するには議員総会の議を経なければならないのに、その決議のあつた事実はない、かりに会員権停止の処分が行われたとしても、正会員の資格は存続せしめ、会費負担の義務のみを残留させながら、その地位に当然随伴する権利即ち本件においては表決権のみを停止するが如きは、憲法第二十九条の精神に違背し無効である。(二)その他の主張はすべて原判決事実摘示の通りであると述べた。よつてこれを引用する。

(二)被控訴人等代理人は、(イ)控訴人の主張する前掲(ハ)の事実に対して次の通り述べた、即ち本件会員総会当時における正会員の総数並びに右総会に出席した会員数が控訴人主張の通りであることは認めるが、当時右正会員総数の内、六百八名については、定款の規定に従つて、昭和二十二年一月二十九日開催の議員総会の決議に基き昭和二十五年二月十六日の理事会において会員権停止を決議したものであるから、定款第十八条但書の規定によつて、本件会員総会における定足数を定めるについては、右正会員総数の内から前示会員権を停止された者六百八名を控除して、これを判定すべきものであつて、かく解するときは、右会員総会においては何等定款所定の定足数に欠けるところはない。(ロ)控訴人主張の前掲(イ)及び(ロ)の事実は争う。(ハ)その他の主張はすべて原判決事実摘示の通りであると述べた。よつてこれを引用する。

三、証拠

(一)控訴代理人は、新に甲第十二号証を提出し、乙第八、九号証の成立を認めると述べた。

(二)被控訴人等代理人は、新に乙第八、九号証を提出し、甲第十二号証の成立を認めると述べた。

(三)その他当事者双方の証拠の提出、援用並びに認否は、すべて原判決事実摘示の通りであるから、これを引用する。

理由

一、被控訴人東京商工会議所が昭和二十一年十二月二十日設立認可をうけた社団法人であること、昭和二十五年二月二十四日開催された被控訴人東京商工会議所の第四回定時総会(本件会員総会)において、右会議所の役員選任を同会議所の議員総会に委任する旨の決議をなしたこと並びに同年六月二十八日開催された被控訴人東京商工会議所の第十回議員総会(本件議員総会)が右定時総会の決議による委任に基き、「高橋龍太郎を会頭に、上野十蔵、近藤銕次、岸喜二雄、守随彦太郎を副会頭に、浅尾新甫、庵本伊三、伊藤精七、板倉安兵衛、岩上淳一、岩瀬英一郎、磯村乙己、上田長清、小川春之輔、小野義夫、大沢常太郎、折笠敬治、伽藍康裕、木村英雄、菊地武一、五島斎三、小菅千代市、小林寅次郎、清水康雄、曾我正一、高井亮太郎、高田五郎、千金良宗三郎、司忠、戸田利兵衛、遠山元一、永野重雄、根津嘉一郎、野沢一郎、原安三郎、服部正次、浜忠次郎、堀久作、丸山権一郎、丸山茂、松島武夫、向井武雄、守谷正毅、八坂雅二、横山公雄を理事に、鈴木幸七、平原重吉、吉田信賢を監事に選任する。」旨の決議をしたことは、本件当事者間に争いがない。

二、よつて本件決議が無効であるという控訴人の主張について、左に順次に検討を加える。

(一)原判決事実摘示(1) の(イ)の主張について。

本件会員総会招集の通知に、被控訴人東京商工会議所の役員の選任に関する件が議題として記載されていなかつたことは当事者間に争いがなく、原本の存在並びに成立に争いのない甲第一号証によると、右会議所の定款第十七条には、会員総会を招集するについては会議の目的事項を示して通知を発すべきものなる旨規定されていることが認められるから、本件会員総会は、役員選任についての決議に関する限り、会議の目的外の事項につき決議したことに帰するとともに、右会員総会の招集手続にも定款の定めに違反する瑕疵ありといわなければならない。

よつて叙上の如く瑕疵ある招集手続の下に開催された会員総会において会議の目的外の事項についてなされた決議が法律上当然無効となるものであるかどうかについて考える。

右会員総会は民法に定める社団法人の社員総会に該当するものであるが、民法は社員総会の招集に関して、第六十二条に、会議の目的たる事項を示してこれを招集すべき旨を定めるとともに、第六十四条には、総会は予め通知した事項についてのみ決議をなし得る旨が規定されているにとどまつて、該法条に違反して招集された社員総会の決議の効力については、民法には何等定めるところがない。惟うにかかる決議の効力を全面的に否定し去ることは、いたずらに手続の繁瑣と社団の紛争を招来し易き結果となるから、にわかに首肯し得ないところであつて、結局は招集手続の瑕疵の種類、程度その他総会における提案並びに決議の方法等諸般の事情に照して、法が総会を通じてする社員(本件においては会員)の社団管理の権限を確保しようとした趣旨を著しく没却することになるかどうかによつて判断することが妥当であると解する。

これを本件についてみるに、前記会員総会の招集通知には、会議の目的事項として、「五、その他」なる記載のあつた事実(当事者間に争いなし)及び右会員総会には会員の過半数が出席したものである事実(後段(五)の認定参照)を前掲甲第一号証、原本の存在並びに成立に争いのない甲第三号証、成立に争いのない乙第一号証の一、四、五、同第三号証の四、原審証人藤岡清則、木村英雄、野沢一郎の各証言と併せ考えると、本件会員総会において緊急動議として上程された役員選任に関する提案について、役員の選任を議員総会に委任する旨の決議をなした事情は、先きに昭和二十三年二月二十五日開催された第二回会員定時総会において、その招集通知に議題として記載されていなかつた役員選任に関する事項が緊急議案として提案議決された先例にならつたものであり、従来も招集通知に記載されていない事項について会員総会においてこれを審議可決した事例も多かつたので、かかる事情をも考慮して本件会員総会の招集通知にも議題として「五、その他」と記載して当日議場において緊急動議によつて、通知された事項以外の事項についても上程決議することのあるべきを予め示してあつたものであつて、従つて本件会員総会には会員の過半数を占める千四百六十九名が出席して緊急議案として上程された役員選任の議題について審議の結果格別異議を唱える者もなく、役員の選任を議員総会に委任する旨の議案が可決されたものであるが、その席上には当時控訴会社の副社長であつた水口直忠(現在控訴会社の代表者)も立会つていたけれども、同人は事業関係について一、二発問をなしたにとどまり、役員選任の件に関しては特別に発言をしなかつたものである事実を認めることができる。該認定を覆すに足る確証はない。

叙上の事実に基いて、招集手続の瑕疵の種類程度その他総会における提案並びに決議の内容、方法等諸般の事情から考えてみると、本件会員総会の右決議は、会員が総会を通じてなす社団管理の権限を確保しようとした法律の精神を著しく阻害したものとは認められないから、これを無効とすべき根拠に乏しいものといわなければならない。この点に関する控訴人の主張は理由がない。

(二)原判決事実摘示(1) の(ロ)の主張について。

被控訴人東京商工会議所においては、定款第十八条但書の規定によつて、役員の選任が会員総会の特別決議事項とされていることは、当事者間に争いがない。ところが前掲甲第一号証によると、役員の選任その他定款第十五条列記の事項については、会員総会の議決を経べきものとせられているが、同会議所には、会員総会の外に、会員より選任された議員を以て構成する議員総会という意思決定機関が設けられており、会員総会はその権限に属する事項を、定款第二十条の規定によつて、議員総会に委任し得ることが認められる。従つて被控訴人東京商工会議所においては、右定款第二十条の規定に準拠して、社団法人に関する民法の規定に違反しない限り、会員総会において議決すべき事項を議員総会に委任し、その決議によつて同会議所の意思決定をなし得るものであつて、しかも右定款第二十条においては、その委任事項が特別決議事項たると普通決議事項たるとを区別しておらず、又控訴人主張の如く、これを区別して考えなければならないとする法令又は定款上の根拠はなく、更に役員の選任というが如き事項は、その本質からみても、控訴人の主張するが如く、常に必ずしも会員の直接の議決にのみよることを要し、定款の定めを以てするも、これを他の意思決定機関に委任し得ないものとは、到底考えられない。されば被控訴人東京商工会議所の役員の選任が定款上会員総会の特別決議事項となつていたとしても、固より定款第二十条の適用を妨げるものではないから、本件会員総会において、被控訴人東京商工会議所の役員の選任を同会議所の議員総会に委任する旨の決議をなしたことは適法であつて、この点に関する控訴人の主張は理由がない。

(三)原判決事実摘示(1) の(ハ)の主張について。

被控訴人東京商工会議所の役員の選任が定款第十八条但書の規定によつて、会員総会の特別決議事項と定められていること並びに本件会員総会の決議が右にいわゆる特別決議を以てなされたことは前段二の(一)において説述したところによつて明かであるから、この点に関する控訴人の主張は理由がない。

(四)原判決事実摘示(1) の(ニ)並びに本判決事実摘示(一)の(イ)の主張について。

本件会員総会においては、千三百七十八名の会員が、代理人によつて議決権を行使したこと並びに定款第十九条には、会員は「別に定めるところ」により代理人を以てその表決権を行うことができる旨を定めているが、当時同条にいわゆる特別の規定が存しなかつたことは当事者間に争いがない。

しかしながら右定款第十九条の規定は、民法の規定によつて社団法人の社員に認めている代理人による議決権の行使を制限する趣旨のものではなく、会員が代理人によつて議決権を行使することを原則的に認容するとともに、この場合における代理の手続方法等を統一的に劃定するための細則を別に定めるべき旨を規定しているものと解するのが相当である。而して成立に争いのない乙第三号証の一ないし四、原審証人藤岡清則の証言を綜合すると、被控訴人東京商工会議所においては、昭和二十一年設立以来本件会員総会に至るまで、会員総会の招集通知には白紙委任状を同封し、該委任状を代理人に持参させ或は右委任状に記名捺印の上受任者の氏名を白地としたまま、これを送付させる方法で代理人により議決権を行使させることを慣例としてきたことが明かである。従つて本件会員総会当時においては、右に説明した定款第十九条による細則の制定は未だなかつたけれども、この規定の趣旨を実現する一定の方法が前述の如くすでに慣例として実際に行われていたものであつて、そのため不当な結果を生じたものとは認められないから、定款第十九条が未だ効力を生じないものとはいい得ないのであつて、本件会員総会において会員が、右定款の規定に準拠して代理人により議決権を行使したことは固より適法である。

更に本件会員総会招集の通知に、被控訴人東京商工会議所の役員の選任に関する件が議題として記載されていなかつたことは前述の通りであるが、右招集の通知にも、議題として「五、その他」と記載されていたことは当事者間に争いがなく、従つて右会員総会においても緊急動議によつて、通知された事項以外の議題が上程付議されることのあるべきを予め告知しているものであるから、他に特段なる事情を認むべき資料のない以上、会員が右会員総会における議決権の行使を代理人に委任するに当つては、その代理権は、右招集通知に具体的に明示された議題にのみ局限されるものでなく、広く会員総会において緊急動議として上程さるべきすべての議題に関する議決権の行使についても代理権を付与する趣旨であつたものと解すべきである。従つて本件会員総会における議決権の代理行使を以て、代理権の範囲を逸脱したものであるとなす控訴人の所論は採用できない。

されば会員が叙上の如く代理人によつて議決権を行使したことを以て本件会員総会の決議を無効とする控訴人の主張は理由がない。

(五)本判決事実摘示(一)の(ハ)の主張について。

本件会員総会当時において被控訴人東京商工会議所の正会員の総数が三千八十八名であつたこと並びに右会員総会に出席した正会員数が、会員自身出席した者九十一名、代理人による者千三百七十八名合計千四百六十九名であることは当事者間に争いがない。

ところが前掲甲第一号証によると、本件会員総会において提案された役員選任の議決をなすに当つては、定款第十八条但書の規定によつて、いわゆる特別決議事項として、正会員の半数以上が出席して議決権を行使することを要することとなつていることが明かであるから、前示出席会員数を会員総数に比して考えると、右定款の規定する定足数を欠如するが如くみられる。しかしながら前掲甲第一号証、成立に争いのない乙第八、九号証によると、被控訴人東京商工会議所においては、会費の滞納三ケ月に及ぶ正会員に対しては議員総会の議決を経て会員権を停止することができるものとなつているが(定款第十一条、第二十四条参照)、昭和二十二年一月二十九日開催された議員総会において、会員権停止に関する事項を理事会に委任する旨の決議をなし、昭和二十五年二月十六日開催された理事会では、右決議による委任に基き協議の結果、二年以上にわたつて会費を滞納している会員六百八名に対し会員権を停止する旨の決議をなしたことが認められる。

従つて本件会員総会当時においては、正会員総数三千八十八名の内、六百八名は会員停止の結果、右会員総会に出席して議決権を行使し得る権限を有しなかつたものである。しかるところ前示定款第十八条但書に規定する定足数は、議決権を行使し得る権限を有する会員数を基準としてこれを定むべきものであるから、本件会員総会についても、会員総数の内から叙上の如く会員権停止の処分を受けた者を控除した上において、果して定款第十八条但書に定める定足数を充たしているかどうかを判定しなければならない。かく解するときは、本件会員総会に出席して議決権を行使し得る会員数は、総会員三千八十八名より前示会員権停止の処分を受けた六百八名を控除した二千四百八十名に過ぎないところ、右会員総会に自身又は代理人によつて出席して議決権を行使した会員数は合計千四百六十九名であるから、本件会員総会においては、定款第十八条但書に定める定足数を充たして余りあることが明白である。

控訴人は叙上会員権の停止は憲法第二十九条の精神に違背し無効であると主張するけれども、元来社団法人たる被控訴人東京商工会議所において、会費滞納久しきにわたる会員に対し会員権を停止する旨を定款に規定することは、法人内部の規律を維持する必要上当然の措置であつて、しかも会員たるべき者は、右定款の規定を諒承の上、右会議所に入会したものと解すべきであるから、同会議所が前述の如く定款に定めている手続に従つて適法に会員権停止の処分をなしたものである以上、該会員権の停止なるものが、控訴人主張の如く、会員たる資格は存続せしめ、会費負担の義務のみを残留されながら、その地位に当然随伴すべき表決権の行使のみを停止するものとしても、何等憲法第二十九条の精神に背馳する処置ではないといわなければならない。従つて叙上の会員権の停止が憲法の条規に違反し当然無効であるとの控訴人の主張は理由がないばかりでなく、その他右会員権の停止が法律上当然無効であるとの法令上の根拠を見出すこともできない。この点に関する控訴人の主張は理由がない。

(六)原判決事実摘示(2) の主張について。

本件会員総会の後、昭和二十五年五月二十日に推薦によつて六十名が、又同月三十日に選挙によつて五十九名がそれぞれ新に議員に選任され、本件会員総会当時に比して、議員総会の構成に変更があつたことは当事者間に争いがない。

しかしながら議員総会は、前述の如く、被控訴人東京商工会議所の一の機関であつて、本件会員総会の決議も、議員総会を構成する個々の議員を対象として、これらの者に右会議所の役員の選任を委任したものではなく、同会議所の機関としての議員総会に委任したものであることは疑義の存しないところであるから、会員総会と議員総会との間における叙上委任に関する信頼関係を覆すが如き特段の事情があれば格別、かかる事情の認められない限り、ただ議員総会の構成員が変更したという事由のみを以て、直ちに委任に関する信頼関係を覆滅させるものとして、本件会員総会の決議が効力を失うべきいわれはない。従つて本件議員総会が法律上有効に委任を受けない事項について議決したものとは到底考えられない。この点に関する控訴人の主張は理由がない。

(七)原判決事実摘示(3) の主張について。

本件会員総会から議員総会までの間に、二百数十名の者が新に被控訴人東京商工会議所の正会員となつたことは当事者間に争いがない。

元来会員総会の決議は、特段なる事由のない限り、その後の新入正会員を拘束すべきものであることは当然である。而して前掲甲第一号証によると、定款第十六条の規定によつて、右会議所の会員総会の定時総会は毎年二月に招集し、臨時総会は会頭が必要と認めたとき招集すべきこととなつていることが認められる。この規定から考えると、本件におけるが如く、同会議所の前役員の任期が昭和二十五年五月六日を以て満了する場合にあつては(弁論の全趣旨参照)本件役員の改選をその時期の到来をまつて臨時総会を招集し、その間における新入正会員の意思をも会員総会の決議に反映せしめることは固より妥当の措置というべきであろうが、本件の如く僅々二、三ケ月を先きだつ会員定時総会において役員選任について議決することは法律上違法なりと断定すべき根拠はない。

従つて本件会員総会の決議がその後の新入会員を当然拘束すべきことは論をまたないところであつて、右決議に基いてなされた本件議員総会の決議が新入正会員の役員選任に関する議決権を蹂躙するものとなすことはできない。この点に関する控訴人の主張は理由がない。

(八)原判決事実摘示(4) の(イ)及び(ロ)並びに本判決事実摘示(一)の(ロ)の主張について。

原本の存在並びに成立に争いのない甲第二号証、同第四号証の一ないし十二、原審証人藤岡清則の証言を綜合すると、被控訴人東京商工会議所の議員総会議事規程第四条には、法人及び団体が議員である場合においては、右会議所に届出済の代表者のみによつて議決権を行使すべきものであつて、代理人を以てこれを代理行使することを許さない旨を定められているが、控訴人が代理人であると主張する阿多隼六、宮尾某、北村信男、小笠原光男、小暮和男、田中勉、西川忠一郎、久良知丑二郎、大塚栄一、畑中四郎、長谷川真喜雄並びに寺井俊治の十二名は、いずれも控訴人の主張する東京都繊維工業連合会外十一会社について、前示議員総会議事規程第四条の規定による「右会議所に届出済の代表者」であつて、代理人ではないことが認められる。又控訴人が株式会社明治屋の代理人であると主張する楠深についても、原本の存在並びに成立に争いのない甲第四号証の十三によると、同人がキリン麦酒株式会社の総務部長であることが認められるにとどまつて、同人が株式会社明治屋の届出代表者磯野長蔵の代理人として、右議員総会に出席し同会社のため議決権を行使したものであるとの事実を認めるに足る証拠はない。その他本件議員総会において控訴人主張の者が代理人によつて議決権を行使した事実を明認するに足る確証はない。

従つて右議員総会における決議が、表決権を行使し得ない無資格者の参加の下になされた違法ありと断定することはできない。控訴人のこの点に関する主張は理由がない。

(九)原判決事実摘示(4) の(ハ)の主張について。

前掲甲第一号証、成立に争いのない乙第一号証の二、三、原審証人藤岡清則、司忠、野沢一郎の各証言を綜合すると、被控訴人東京商工会議所においては、定款第二十五条の規定によつて、会頭が議員総会の議長となるものであるが、本件議員総会当時高橋龍太郎は会頭としての任期は既に満了していたけれども、従来の慣例に則り議員総会の同意を得た上で、議長に就任したものである事実を認めることができる。而して前掲各証拠の外、原審証人水口達、石森憲四郎、木村英雄の各証言、原審における控訴会社代表者水口直忠の本人訊問の結果を併せ考えると、本件議員総会において高橋龍太郎が議長に就任することについての決議及び議員から提出された会頭、副会頭は留任、その他の役員の選任は銓衡委員に一任するという提案についての決議をするに際し、議場において多少の混乱があつた事実は認められるが、控訴人主張の原判決事実摘示(4) の(ハ)の(b)ないし(e)の事実はこれを認めることはできない。原審における証人水口達、石森憲四郎の各証言及び控訴会社代表者水口直忠の供述の内、叙上の各認定に反する部分は、にわかに措信し難い。その他本件決議が、控訴人主張の如く、不当な情況の下になされたものであることを明認するに足る確証はない。従つてこの点に関する控訴人の主張は理由がない。

三、叙上詳述した通り、控訴人が本件決議は無効であるとして主張するところは、すべて理由がないから、控訴人の本訴請求は爾余の判断をまつまでもなく失当である。

従つて控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に則り、主文の通り判決する。

(裁判長判事 渡辺葆 判事 浜田潔夫 判事 牛山要)

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